
亜臨界水
- subcritical water
亜臨界水技術は、
ひと言で言うと「強力な圧力鍋」
通常、大気圧下では水は100℃で沸騰しますが、鍋を密閉しておくと発生した蒸気の逃げ場がなくなり、鍋の内部の圧力を高めることにエネルギーが使われるようになります。
圧力が高まると沸点が上昇しますので、結果として「液体の水」を媒体としながらも、120℃程度での調理が可能な訳です。
この現象を、より高温高圧な条件で工業的に利用する技術が「亜臨界水技術」です。
水の温度・圧力を374℃・218気圧となる点を「臨界点」と呼び、この臨界点を超えた状態は固体・液体・気体に次ぐ、「超臨界」と呼ばれます。
この超臨界よりも温度・圧力ともに穏やかな条件である状態は「亜臨界」と呼ばれ、有機物の溶解作用と強い加水分解作用を有しています。
亜臨界水は超臨界水に比べて反応性は低いものの、制御性が良好である点や、反応容器の材質に一般的なステンレス材を使用でき、エネルギー消費量を抑えられる点からより広い分野で実用化に向けた研究が進みつつある技術となります。



「亜臨界水技術」
で出来ること
従来の化学工業においては、扱いにくい溶媒の代表でもあった「水」。
しかしながら、近年のSDGsに代表されるような環境意識の高まりによって有機溶媒を使用しない新しいプロセスとして、
「水」を高温高圧条件にした「亜臨界水」を溶媒に使用する技術が注目を集めています。
01
亜臨界水抽出

乾燥・破砕等の行程が不要な抽出操作
一般的に抽出操作には有機溶媒が使用されますが、天然の植物等を対象とした場合、含まれる水分が溶媒と被抽出物の接触を妨げるために乾燥工程が必須であり、さらに植物細胞ではセルロースで構成された強固な細胞壁に囲まれているため、抽出操作の前に、細胞壁を破砕する工程が必要でした。
一方、亜臨界水抽出では含まれる水分はすべて亜臨界水となるため、乾燥工程は不要となり、細胞壁の破壊はイオン積上昇による加水分解、被抽出物の溶出は誘電率低下による油性物質溶解作用を利用することができます。
加えて、温度を下げればただの水に戻るため、後処理となる油水分離を容易に実施できるという特徴もあります。
02
吸着材の再生処理

使用済み活性炭などの亜臨界水再生処理
使用済みの活性炭などの吸着剤を亜臨界水処理で再生することもできます。
従来、活性炭の再生には大型のロータリーキルンを使用し、700~900℃ほどの高温で吸着している物質を燃焼・除去させる方法が一般的です。しかしこの方法は大量のエネルギーを必要としていました。
これに対し、亜臨界水処理では、加水分解力による吸着物質の低分子化と、溶解力によるマイクロポアからの抽出が併発するため、比較的低温である200~300℃程度で再生することができます。(吸着物質の種類によっては適用できない可能性もあります)
03
食品の高機能化

リグニンの分解による新しい芳香成分の創出
植物細胞は乾燥重量のおよそ3割がリグニンという多種多様な芳香族分子が重合した物質で構成されています。
このリグニンを亜臨界水処理によって加水分解することで、比較的低分子量の芳香族分子が生成されることが知られています。
温度条件によって分解力をコントロールできれば、植物由来の新たな香料原料になりうる可能性があります。
04
食品の高機能化

ポリフェノールの吸収率向上
植物細胞に含まれるポリフェノール類は、健康食品として様々な効果を有しています。
通常、これらの物質は植物細胞内で配糖体と呼ばれる糖が結合した状態で保存されており、人体で吸収するには、結合した糖を分解除去したアグリコン体にする必要があります。
経口摂取した場合、通常は、腸内細菌等によって徐々にアグリコン化され順次吸収されていきますが、腸内 細菌群によっては分解されなかったり、あるいは分解が間に合わないなどの問題もあることから効率的な摂取が難しくなります。
これに対し、亜臨界水処理を適用することで、比較的分解しやすい結合糖だけを熱分解/加水分解しアグリコン体 として回収することができます。
加えて、配糖体とアグリコン体それぞれの常温水、亜臨界水への溶解度を利用した分離精製技術としての利用法も考えられます。

TOHZAIでの試験実例
TOHZAIでの試験実例
実施した試験実例の一部をご紹介します。
TOHZAIでは各種亜臨界水処理装置を有しており、受託試験や研究コンサルティングを行うことが可能です。

蚕繭からのセリシン(保湿成分)・
フィブロイン(繊維成分)の分離回収
化粧品原料や健康食品として注目されている蚕繭を処理した例です。
繭の主要構成成分であるセリシンとフィブロインについて、セリシンはゲル、フィブロインは繊維として回収することができました。
さらに繊維状物質であるフィブロインの再処理により低分子化、液状化することもできています。

甲殻類殻からのキチン分離回収
甲殻類殻からのキチン回収をターゲットに処理を行いました。
従来法では強酸・強アルカリ処理によって殻中の無機成分を取り除く工程がありますが、亜臨界水処理では希薄な酢酸溶液でもかなりの部分を取り除くことができています。

使用済みPETボトルの
水熱分解・原料回収
PETボトルは使用済みプラスチックとして汚れが少なく、異物混入が少ない状態で回収される代表例です。
裁断したPETボトルを処理したところ、白色結晶と透明な水溶液を回収することができています。
白色結晶はFT-IRによりテレフタル酸(PET樹脂原料)であることが確認できました。